遅れ三杯的映画紹介① ~インドカレーが食べたくなった三本~

映画のススメでオススメする作品は、その月に観た中で一番良かったであろうものを紹介するけれど、その一本に決めるまでに、他の作品も何本か観ている。そうした作品の中にはSNSで少し感想を書いてみたり、どうでも良い蘊蓄を語ってみたりしたものもあって、一本分だとどうにも物足りないけれど、三本分ぐらいを纏めれば、なんとか形になるものもあるだろうし、それがまたオススメとなって、誰かがその作品を愉しんでくれるなら、それもまたこの集まりの趣旨に沿っているのではないかと思う。ということで、第1回目はインド映画とカレーをテーマに。

『スタンリーのお弁当箱』 ★★★

人気者のスタンリーは家の事情で学校にお弁当を持って来ることができなくて水道の水を飲んで空腹を満たしていた。そんなスタンリーを見かねたクラスメートは自分たちのお弁当を少しずつ分け与えようとするけれど、意地悪なヴァルマー先生に横取りされて…この食い意地の張った先生が本当に憎たらしいのだけれど、どうやら監督本人が演じているらしく、本当に大人気ない大人をこういう風に描くことでインドの子供たちが置かれている現実のようなものをこの作品なりに表現しているように思えて、ボクは結構楽しめた。それでもネットでの評価は割れている感じ。インドはそんなに甘くないよと言う感想は別にそれで正しいけれど、インド映画はインド映画として純粋に楽しみたい。インドにおける映画は、今の日本とは比較できないくらい国民的人気を誇る娯楽だし、彼の地の人たちは今のボクたちが決して及ばない程に映画に希望とか夢とかを投影しているように思う。そしてボクはそのようにこの作品を楽しみたい。

『聖者たちの食卓』 ★★★

すげーなインド、カオスすぎる。インド北西部の都市アムリトサルにある黄金寺院では、毎日10万人分の食事が無料で供される。宗教、人種、職業に関係なく、それは500年以上も続けられているらしい。乾燥豆のカレーとチャパティという簡素な食事ながらおかわり自由という太っ腹で、しかも見た目から滅茶苦茶うまそうである。人が中に入って洗うような大鍋で煮込んだカレー。鍋であれ、皿であれ、食堂の床であれ、汚れたら大量の水で洗い流して浄める。とにかく水、そして大きな火が印象的なドキュメンタリー。意外と衛生面はしっかりしているんじゃないかな。ちゃんと煮炊きしているし、ヤカンで注がれる生水さえ飲まなきゃお腹痛くはならないだろう。いや、やっぱりインドはすごいわ。

『めぐり逢わせのお弁当』 ★★★1/2

インドは民族的、宗教的、そして階級的に複雑で、食事のルールとかも厳しい決まり事があって、街の食堂なんかも細かく区分されている。故にサラリーマンは社食のようなものは利用せずに、家で作ったお弁当を食べることが多いのだという。一方、大都市ムンバイでは、100年以上も前からビジネスマンのお昼の弁当を家庭から職場へ配送してくれるダッバーワーラーという職業の人々が存在する。利用者は1日20万人、ダッバーワーラーは5千人にも達するという。間違って配送する確率はなんと6百万分の1という高度に組織化されたサービスである。この映画はそんなダッバーワーラーが偶然にも間違った配送先にお弁当を届けたことからはじまる6百万分の1のめぐり逢いのお話なんだけど、ストーリーとかなんとか言う前に、お弁当を作ったり、食べたりするシーンがてんこ盛りで、特にインド料理の調理シーンだけでも十分に楽しくて、観る価値がある。カレーっぽいものやお総菜、時にはデザートっぽいものを作るシーンや、主食であるチャパティを焼いているところ(直火に掛けると風船のように膨らむ)なんかは近所のインド料理屋なんかではお目にかかれない。画面から匂いが漂ってこないことがただただ残念。

2021.09.21 TUE

TEXT BY mat_shinji
最近、スパイスを調合してシンプルなインドカレーを作って食べるのが趣味。